精神疾患

2012年04月20日

非ヘルペス性急性脳炎

 脳炎

弁護士 佐久間明彦


 今回は、少々、恐い病気の脳炎について触れてみたいと思います。


一口に脳炎といっても、細菌やウィルスに感染する等により脳実質に炎症が起きる狭義の脳炎と、髄膜に炎症が起きる髄膜炎とがあります。これらを併せて髄膜脳炎と呼ぶこともあります。なお、脳実質とは、大脳、小脳を意味し、髄膜とは、頭蓋骨と脳実質の間に存在する硬膜、クモ膜、軟膜を総称するものです。


脳炎を感染源から分類すると、ウィルス性、細菌性、真菌性、結核性、がん性に大別されます。その他に、最近、症例が多く報告されるようになった非ヘルペス性急性脳炎もあります。ウィルス性以外は、光学顕微鏡に映るレベルであるため、顕微鏡による診断、判別も有効です。


ウィルス性脳炎で最も多いのは、ヘルペス脳炎です。ここでいうヘルペスとは、単純ヘルペスウィルスのことです。ヘルペスには、帯状疱疹ヘルペスウィルスもあります。帯状疱疹ヘルペスは、水痘ウィルスとも言われ、若年期の水痘(水疱瘡)や更年期の帯状疱疹を発症させる原因となります。ヘルペス脳炎に対しては、アシクロビールという特効薬がありますが、他のウィルス脳炎に対してはこれといった治療薬がないのが実情です。


なお、細菌性脳炎に対する治療薬である抗生物質は、真菌性脳炎に対しては逆効果となり、症状を悪化させることがあります。それは、真菌(カビ)が抗生物質を好む性質があるためです。したがって、脳炎の感染源の診断を誤ると、治療するつもりで疾患を助長させることにもなりかねないのです。


本来、無菌であるはずの脳に、ウィルスや細菌等が入り込むわけですから、脳炎は身体を重篤な状態に陥れます。症状としては、発熱、頭痛、咳、悪心、嘔吐の他、意識障害、痙攣、奇異行動も現れたりします。そして、死に至ることもあります。


しかし、もっともやっかいなのは、非ヘルペス性急性脳炎です。若い女性に多く発症し、この患者にはかなりの確率で卵巣奇形種が発見されています。近時、非ヘルペス性急性脳炎は、抗NMDA受容体という抗体の一種が病因であることがわかってきました。この抗体は、幻覚や妄想、奇怪な言動といった精神病症状を引き起こしますが、抗体産生の意義やメカニズム等解明されていない部分が多いとされています。それまで普通に生活し、健康であった人が突然、幻覚を見、奇っ怪な行動を取り始めるため、精神分裂病(統合失調症)と間違えられることもあります。ただ、精神分裂病は、発熱等を伴うものではないため、患者の細かな身体状況の変化を見逃さないことが重要です。かかる非ヘルペス性急性脳炎の治療は、抗体が原因しているため、ステロイド等を使用した免疫療法が有効とされているものの、未だ適切な方法が確立していないのが現状です。

 

 

 

 

 

 



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2011年11月05日

内科・外科と精神疾患の架け橋

弁護士 金 崎 浩 之

1 神経性食思不振症

 神経性食思不振症とは、いわゆる拒食症のことですが、この病気に罹患していた患者さんが、足のふくらはぎあたりに巨大血腫ができたため、某県立病院で手術をして入院したところ、入院4日目に死亡してしまいました。

 法律相談を受けた私が、ご遺族の方から事情を伺ったところ、不審な点を感じました。その患者さんには、10年以上も前に拡張型心筋症と慢性心不全という診断をされていたのですが、今回の死亡診断書には心臓突然死とあり、その原因は拡張型心筋症と慢性心不全であると記載されていたからです。
 本当は、この医療機関の担当医師も死因がわからないのではないか、拡張型心筋症と慢性心不全の持病があったため、説明の道具として都合よく使われたのではないか、という疑いを持ったんです。

 そこで、その県立病院を相手に証拠保全をかけて、カルテ等を入手した上で、2人の医師(循環器内科と外科)のアドバイスも参考にしたうえで、訴訟することは断念しました。

2 医療崩壊か?

 私が訴訟を断念したのは、医師や医療機関に責任がないという心証を持ったからではありません。
 むしろ、「やっぱりいろいろ問題があったんだなあ」と確信しました。

 まず、あれだけの血腫に対して手術を実施しているのに、速やかに入院させていない、外来の手術ですませているんですね。
 最終的には後日入院させてもらってはいるんですが、どうしてすぐに入院できなかったかというと建前上は、ベッドの空きがなかったから調整していたということなんですが、カルテ等を見ると、この患者さんを入院させたくなかったという本音の部分が書いてあったんです。

 神経性食思不振症の患者さんて、治療、特にカロリー輸液には強く抵抗する傾向があるんです。
 また、手術の術後管理ですから通常は一般病棟に入院させるはずなんですけど、この病気の患者さんは一般病棟だと他の患者さんとトラブルを起こすことも珍しくないようなんです。

 この症例でも、一般病棟ではなく精神病棟に入院させられております。建前上は、ベッドの空きが精神科で確保できたから、ということなんですが、本当は一般病棟では受け入れたくなかったからなんです(それも保全した資料にバッチリ書いてありました)。

 また、手術の内容から考えても外来扱いで手術後に帰宅させてよいようなものではなかったんです。確かに、外科手術した場合、常に入院が必要になるわけではありません。私も若い頃にスポーツで怪我をして簡単な手術(頭部を5針ぐらい縫しました)を受けましたが、普通に帰宅しています。
 しかし、この患者さんの場合、足にできた血腫が異常なほどの巨大血腫(協力医のひとりは、「こんなにすごい血腫見たことない」と感想をもらしていました)で、手術の際の出血も相当量に及んでいるんです。おまけに、手術には一般的に合併症や感染症のリスクがあるのですが、この患者さんの場合、かなりの低栄養状態で免疫力もかなり低下していたはず…。
 実際に入院措置がとられたのも、県立病院内部の医師の「これ、入院させないとまずいんじゃないか」という発言に端を発しています。

3 結局、死因は特定できず

 これだけいろいろ問題がある事案だったんですが、患者さんの遺族にとって最大の弱みは、「解剖していないこと」です。

 もちろん、全ての医療事件で解剖していないと死因が特定できないわけではありません。
 しかし、このケースでは解剖していないために、お手上げでした。

 CTRは非常に拡大していました。単純X線写真の画像を見ると、右側の横隔膜が著しく挙上しており、肺水腫も疑われました。
 CRPも正常値を越えており、何らかの細菌感染の可能性もありました。

 でも、「So what?」なんです。いろいろ疑われる所見が散見できても、死亡の理由を説明するにはほど遠いんです。

 感染症が原因となって、DIC(播種性血管内凝固)を発症したのかもしれません。
 別に、DICを疑うに足りる十分な所見が何かあったわけではありません。でも、協力医の先生は、「それも可能性としてはあるよ」とおっしゃっていました。

 ちなみに、遺族が解剖を見送った背景には、県立病院の医師とご遺族との間で以下のようなやりとりがあったんです。

 医師「解剖すれば、もう少し死因がわかるかもしれない。でも、デメリットはご遺体を傷つけることです」
 遺族「これ以上傷つけるのは可哀想なので解剖はなしでお願いします」

 まるで、白い巨塔の名場面と同じではありませんか!
 この部分を読んだ協力医の先生も、「普通、医者はこんなことは言いません。たぶん、解剖したくなかったんでしょうね」とおっしゃっていました。

4 問われるのは、精神科と内科・外科の架け橋

 それでも2人の協力医の先生は、裁判は薦めないということでした。

 もちろん、弁護士の立場からすると、そもそも本当の死因も分からないし、過失も因果関係も特定できないのですから、当たり前と言えば当たり前なんですが、医師の立場からすると、「この患者さんの治療はできない」ということなんです。
 医療に強く抵抗するし、点滴しても自分で抜管してしまう。医療機関らすると、ちゃんと治療をしてあげられないタイプの患者さんなんです。
 「このような事例で医師の責任が問われたのでは、医療崩壊に繋がる可能性もある」と感想をもらしている医師もおりました。
 要するに、酷な言い方をすれば、このような患者さんって、今問題視されている「モンスター・ペイシェント」と同類なんですね。

 でも、私はそれはおかしいと思います。このような患者さんは、決して「モンスター」ではありません。病気が原因で治療を拒絶しているんです。モンスターと同視して医療の提供を拒否してしまうということが許されるのであれば、精神疾患に罹患した人は、まともな内科・外科治療もうけられなくなってしまう。それはおかしいと思います。
 特に、神経性食思不振症のような摂食障害は、統合失調症やうつ病などの精神疾患と異なり、内科や外科などの治療が先行き必要になってくる疾患だと思います。なぜならば、低栄養や饑餓状態を招くからです。
 したがって、この病気は、もはや精神科の領域であるといって片付けるのではなく、内科や外科などの一般の医師たちの領域であるという認識を持つことが必要なのではないでしょうか。
 そして、一般病棟から排除して精神病棟に追いやるのではなく、一般病棟でもしっかり治療を行える病院としての体制構築が必要なのではないかと思います。


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2011年10月30日

神経性食思不振症(2)

神経性食思不振症(2)

弁護士 金崎 美代子

1 遺伝的素因

 神経性食思不振症が、主に思春期における家庭内の人間関係、受験・就職などのストレスにより発症すると言われていることは前回でも触れましたが、もちろんそれが唯一の本症発症原因というわけではありません。

 そして、中には遺伝的素因もあるのでないかという指摘もあります。

 遺伝的素因などと言われると、これを読んだ患者さんのご両親は気にしてしまうかもしれませんが、仮に何らかの遺伝的素因が発症に一定の影響力を持っていたとしても、遺伝的素因だけで直ちに発症するというものではないようなので安心してください。

 遺伝的素因として議論されているのは、食欲調節中枢の機能異常との関係です。しかし、この議論も食欲調節中枢の機能異常が本症に直結するということまで論じているわけではなく、ストレスがそのひきがねになるというメカニズムのようで、ラットを使った動物実験でも確認されているそうです。

 もっとも、遺伝的素因の可能性が指摘されているとはいえ、具体的にどの遺伝子かということまで特定されているわけではなく、何らかの遺伝的素因が関与している可能性が示唆されているレベルにとどまります。

2 性格傾向

 前回のブログでも触れましたが、臨床の現場で観察される、本症によく見られる性格傾向があるそうです。

 すなわち、性格的には完璧主義の志向が強く、親や学校の先生たちからの評判もいい。
 しかし、それでいて、内面では自分に自信がなく、自己評価は低い。周囲に対して不満があっても、自己主張ができない。
 こうした見た目と内面とのギャップがあるようです。
 したがって、周囲からの比較的高い評価は、本人がかなり無理して努力した結果だと言えます。

 確かに、このような性格傾向は、社会生活の中でストレスをため込みやすい性格傾向だと言えそうですが、ただ程度の差はあれ、正常な人間であれば、このような傾向って誰でもあるような気がします。

 素の自分をそのまま見せて他者と関係性を築く人なんてあんまりいませんからね。

 これがストレスを生じさせやすい性格傾向であるいことは分かるのですが、個人的にはしっくりきません。

3 家庭環境

 家庭環境って、実は必ずしも憩いの場とは言い難い面もあって、家族とはいえ他者であることか一定のストレスになりますよね。

 また、見方によっては、家族だから人間関係が難しい側面もあって、他人には求めてはいけない甘えが向けられたりしながら、それでいて一定の遠慮もあったりなんかして…。
 さらに、家族のメンバー間の関係も決して対等ではなく、優劣的立場にある人もいれば劣位にたたされている人もいる…。例えば、夫婦、母子、兄弟など、その関係は必ずしも対等ではないですよね。

 こうして考えてみると、家庭環境って、学校や職場の人間関係よりも場合によっては大きなストレスになるようにも思えます。

 家庭環境が神経性食思不振症の発症に影響を与えていることは一般的に指摘されているようです。

 臨床で観察される傾向としては、父親よりも母親優位の家庭で、時に家庭の中では無力な父親として映る場合もあるとか。無力と言っても、その父親の社会的地位とか経済力とかとは関係がないらしく、たとえ外では立派な男性でも、家庭内では無力みたいな場合もあるようです。でも、これって、現代社会ではけっこう多そう(笑)。

 そして、母親と娘の関係性にも一定の傾向があるようで、過保護で過干渉、娘を支配的養育していく傾向が指摘されております。
 このような母親の傾向の影響もあるのか、娘の傾向としては、自立性の発達が阻害されて母親への依存度が高まっている…。

 こんなことを書いてしまうと、これを読んだ世の中のお母さんたちはすごく気にしてしまうかもしれませんけど、あくまでも参考としてとらえてください。これも見方によっては、程度の差こそあれ、どのような家庭にも観察できそうな傾向だと思いますので。

 



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2011年10月14日

神経性食思不振症(1)

神経性食思不振症(1)

弁護士 金崎美代子


1 どんな病気か

 神経性食思(食欲)不振症とは、皆さんに馴染みのある言葉で言えば、いわゆる「拒食症」のことですが、この病気、けっこう恐いんです。

 というのは、この病気は一応”精神疾患”に入るのですが、病気の性質上、ほぼ間違いなくカラダの異常を来すからです。つまり、長引く拒食のため低栄養状態になり、内科的治療を必要とする場合が多いにもかかわらず、患者さん自身は、カロリー摂取に対する恐怖心から治療に抵抗することが多いんです。それに加えて、これは医学の専門分化のある種の弊害かもしれませんが、精神疾患であるが内科的治療も必要ということで、内科と精神科の連携が重要となるのですが、多くの病院ではそのような体制にはなっていません。

 例えば、この病気で入院加療が必要な場合を想像してみてください。栄養療法などの内科的治療を行うのであれば、内科の一般病棟に入院させるべきですが、この病気の患者さんは、後述するように精神疾患に罹患しているため、治療への抵抗も強く、また一般病棟に入院している他の患者さんとトラブルを起こすことも珍しくないと言われています。この点に配慮するならば、精神科の病棟に入院させたほうがよいのですが、今度はそうなると内科的治療の対応力に問題が生じます。

 生命への危険が迫っているような重症症例では、精神科で治療をするのはナンセンスで、その場合は内科でしっかり見てあげるべきだと思いますが、その場合、内科医にもこの病気に対する理解とカウンセリング能力が必要となります。また、他の入院患者とのトラブル回避の院内体制の構築も必要でしょう。いずれにしても、医療機関にとっては、大変扱いにくい病気です。
 ちなみに、この患者の実に70%が一般内科を受診しているそうです。ここまで来ると、もはや”精神疾患”とは言えず、内科の領域とも言えそうです。


2 発症と身体所見
 この病気は、一般的に誤解されているような、”度が過ぎたダイエット”ではありません。単にダイエットが過剰だっただけなら、精神疾患とまではいえないでしょう。
 この病気がいわゆる思春期に発症しやすいこととも関連しますが、両親など家族との不和、いじめ、転校、就職からくる過度のストレス、人間関係の悩みなどが背景になることが多いと言われています。
 また、一般的にこの病気にかかりやすい性格傾向も指摘されております。完璧主義で学校の成績も良好、親から見て「手がかからないよい子」が発症しやすいと言われているようです。

 一般的に言われているこの病気の身体所見を簡単にまとめてみました。
・標準体重に対する20%以上の体重減少
・幼児体型
・無月経
・乾燥した皮膚
・背部などのうぶ毛の密生
・低体温、低血圧、低血糖
・徐脈、不整脈
・嘔吐
・浮腫

 発症年齢は、ほとんどが25歳以下ですが、まれに30歳になってから発症するケースもあるようです。
 また、男性が罹患するケースもあるそうですが、ほとんどは女性です。女性がこの病気にかかると、割と早い時期に無月経になります。

 また、この病気の患者さんの約50%に一過性の”過食症”が出現するとも言われています。どうしてかというと、十分な栄養をとらなくなると、当然に低栄養状態になり、やがてカラダは”饑餓状態”に陥ります。こうなると、患者本人の意思はともかく、カラダは栄養を求めます。その結果、脳の食欲中枢が刺激され一過性の過食症が出現するわけです。

 その後、十分な栄養をとるようになれば、めでたし、めでたしなんですが、あいにくそうはなりません。カラダは栄養を求めていても、本人の意思は栄養摂取を強く拒絶しています。結果、どうなるかというと、下剤などを乱用するようになり、嘔吐も繰り返すようになります。
 嘔吐を繰り返せば、当然、食べ物だけではなく胃酸なども排出されますから、低カリウム血症などの電解質異常も出現します。こうして、段々とカラダに異変が起こり、カラダの抵抗力・免疫力も低下し、感染症にもなりやすい体質になっていきます。

 本当に恐いですね。これから何回かに分けて、この病気をブログで取り上げたいと思います。

(参考文献)
・「内科医にできる摂食障害の診断と治療」堀田眞理著(三輪書店)

 





 



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